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中央道多重衝突:「ぐしゃ」…何度も 物語る事故の激しさ 悲報に家族落胆 /長野

 14日未明、阿智村駒場中央自動車道で4人が死亡、10人が重軽傷を負った車両21台が絡む多重衝突事故。娘と孫を失った家族は突然の悲報に表情をこわばらせた。事故に巻き込まれた大型トラックの運転手らは、車が次々ぶつかる悪夢のような事故当時の様子をおびえたように振り返っていた。【神崎修一、福田智沙、江連能弘】
 ◇5年間で72件
 「『ぐしゃ』という音が何度も」「ブレーキ間に合わない」――。現場は下り坂の急カーブで見通しが悪く、関係者の間では、以前から事故が多発する「魔のカーブ」として知られていた。恐怖や驚き、戸惑い。事故に巻き込まれ疲れ切った表情の運転手らからは、さまざまな声が聞かれた。
 「後ろからどんどん車が突っ込んできて、『ぐしゃ』という音が何度も聞こえた。怖かった」。先頭からやや後方で事故に巻き込まれた、茨城県常陸太田市の男性運転手(44)は声を震わせた。急ブレーキで停止し、大きなケガなどはなかったが、後続車が車の横を猛スピードで何度も通り過ぎ、前の車に突っ込んでいく姿を目の当たりにした。身の危険を感じ、運転席後ろのベッドに逃げ込んだという。「前から後ろから車がどんどん来て、車外に出ようなんて思わなかった」と振り返る。前方で事故にあった栃木県佐野市の運転手(37)も「ドン、ドンと後ろから衝撃を受けた」と話す。
 「フルブレーキをかけたが間に合わなかった」。車列後方で事故に巻き込まれた千葉県の運転手、木村義久さん(37)はこう証言する。事故があった14日未明は、小雨が降り路面が濡れた状態で、視界もさほどよくなかったという。栃木県鹿沼市の男性運転手(28)は「(現場の)カーブに入った途端に、前に車が横になっているのが見えた」と話す。「ここが危険ということはよく知っていた。いつもハンドルをしっかり握って、アクセルからは足を離していた」と話す。
 現場は今年に入り8件の事故が起こるなど、危険な場所として知られていた。名古屋への高速バスを運行する「信南交通」(飯田市)の運転手(53)は「カーブが長くてきつく、常に運転しにくい場所。見通しも悪く、道幅も狭く感じるほど圧迫感がある」。中央道をよく通るという群馬県桐生市の男性も「下りの後のカーブで、距離感がつかみにくい」と危険性を指摘する。県警高速隊は「構造上は問題ないが、カーブであり、一般論として危険であると思う」としている。
 ◇同地点での死亡事故は01年以来−−県警交通企画課
 県警交通企画課によると、今回の事故現場と同じ場所で01年6月、甲府市の男性会社員の乗用車が雨でスリップし、道路左側のガードレールに衝突。同乗者で車外に投げ出された男性の妻ら2人が死亡する事故が起きていた。同地点で死亡事故が起きたのは5年ぶりという。
 また、同課などによると、現場は半径300メートルのカーブ。付近の事故は04年に8件、05年に6件起きており、01年から05年の5年間で72件発生している。今年に入っての事故は物損事故6件、人身事故2件の計8件で、今回の事故は9件目だった。【光田宗義】
 ◇「出発をあと10分遅らせていれば」−−亡くなった斎藤文江さんの父
 亡くなった斎藤文江さんの父(65)は、事故直後に文江さんの夫の琢司さんから「事故に巻き込まれた。足が挟まれて、動けない」と電話があったという。その後、何度も連絡を取ろうとしたが、携帯電話はつながらなかったという。「出発があと10分、遅らせていれば、こんなことにはならなかったのに」と駆け付けた飯田市内の病院で話した。
 斎藤さん一家は敬老の日に合わせて、文江さんの実家がある岐阜県に向かう途中だったという。文江さんの父は「1週間ほど滞在する予定で、毎日何をするかも決まっていた。みんな楽しみにしていたのに」と厳しい表情で話した。【藤原章博】
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 ◇10時間足止めの運転手たち、疲れた表情で座り込む
 大型トラックや乗用車など21台が絡んだ阿智村の中央道下り線の追突事故。現場には道路をふさぐように真横に停車したままのトラックや、くの字のように折れ曲がり大破した乗用車、前面が大破しガードレールにめり込んだトラックなどがそのまま残り、事故の激しさを物語っていた。事故車両の列は100メートル以上に及び、10時間以上も足止めされた運転手たちが、疲れた表情で路上に座り込む姿が見られた。
 先頭のトラックが積んでいた飲料水のペットボトルが、無数に散乱していた現場。オイルのにおいがする中、事故車両の撤去作業が夕方まで行われた。現場の一角に、子供用のくつや、ぬいぐるみ、メガネ、傘など持ち主のわからないものが集められていたが、引き取りに来る人の姿はまばらだった。【神崎修一】
9月15日朝刊 毎日新聞

 
普通の記事のようで凄い臨場感がある。
特に巻き込まれた人たちの話での状況描写がかなりリアル。
まるで物語を読んでいるかのようだ。