耳をすませば (蝶ネタバレあり)

良い。名作。
中学3年生の月島雫は、読書好きな女の子。
進路を決めかねていた雫は、夏休みのある日
ひょんなことから知り合った同学年の少年のことが少しずつ気になっていく・・・。
思春期で揺れ動く雫の心の成長を、恋や進路という多くの人が直面するであろう問題と
絡めて描いた青春物語。
  
この作品、始まってすぐに気付くのが圧倒的な描写の丁寧さ。
町並みとかのリアルさは言うまでもなく、雫の家の中(アパート)の様子なども
とんでもなく細かいところまで描かれている。
しかもこの絵のタッチが、ただリアルなだけじゃなくてもんのすごいノスタルジック。
雫の家の中とかはまさに日本人の部屋って感じで(普通あんなに本はないけど)
始まって5分で既に無性に懐かしくなって悶え死にそうになる。
雫の家族との会話も「あ、これあるある」ととても共感を覚えるものが多い。
  
ストーリーの方は王道だが、だからこそ良いと言える仕上がりになっている。
あの雫たちの不器用な恋が、切なくて甘酸っぱくて、見ていて切なくなる。
進路を決めている聖司に対して、何も決めずに無為に毎日を過ごす自分への
不安や焦燥感などもリアルで雰囲気が伝わってきて良い。

この作品での雫の心の成長は、なんだか魔女の宅急便のそれと似ているなーと思った。
特に、
最初は明るい元気な女の子→困難に直面して落ち込む→それを乗り越え新しいことに気付く
という流れ。もっと言うと
「キキが魔法が使えなくなって落ち込む」時の表情とか態度が
「聖司が遠くへ行くことや、進路が決まらないことに不安を感じる雫」の表情・行動と
実に似通っていると感じた。
 
作中で雫はあることをきっかけに「自分のやりたいこと=物語を書くこと」と考え
聖司の祖父でもあるアトリエ地球屋の店主に、自分の書いた作品の
最初の読者になってもらうことを約束する。
学校の成績までも犠牲にして、ついに雫は作品を完成させる。
タイトルは「耳をすませば バロンのくれた物語」
この作品を読み終わった聖司の祖父は、雫にとても良かったと伝える。
以下はこの時の雫の言葉。
「私・・・私書いてみてわかったんです、書きたいだけじゃだめなんだってこと。
 もっと勉強しなきゃだめだって。」
このことをきっかけに、雫は高校へ行くと進路を決める。
泣きながら雫の言ったこの言葉は、僕にとっても他の多くの人に
とってもきっと大切な言葉だと思う。
やりたいことをするためには、それ相応の努力が必要だということ。重い。
 
あと、見終わって感じる懐かしさや切なさという点に関して。
コンビニ等の建物やちょっとした小道、標識、上り坂、雫のアパートの中の様子、
置いてある物、日常の何気ない会話・・・etc、といった所に徹底して追及されたリアルさが
そのような郷愁の念を起こさせるところに非常に大きな貢献をしていると感じた。
このリアルさは、この作品が「単なるアニメにとどまらない表現」を実現するのにも
一役買っていると思う。
日常の何気ない会話に関しては、雫と雫の家族との掛け合いが非常にうまく出来ていて、
見ているとにやりとすることも多々ある。
 
ジブリ作品といえば異世界を題材にしたものが多いけれど
耳をすませば」「海が聞こえる」「おもひでぽろぽろ」のような
日本の庶民をテーマにしたジブリ作品をもっと見てみたい。