短編小説 〜夢を無理矢理物語化〜   

これは、私たちの住む世界とは全く違ってどこか似ている世界でのお話。
  
1.First Impact
ゴゴゴゴゴ・・・。
地が割れるような轟音で目が覚めた。
時計を見る。AM10:00。
今日は土曜だからいつもならまだ寝ている時間ではあるが
こうまでうるさいと再び眠りにつくことは難しそうだ。
倉木健一は、ベッドから起き上がると机の上の眼鏡をかけ
小奇麗な水色のカーテンをサッと開いた。
・・・・たいして変わったところはない。
彼の住むアパートは、町のはずれの小高い丘に位置しており、
その3階からならば、町の大部分は見渡せる。
アパート前の道路の曲がったミラーも、公園の良く映える緑もそのままだ。
何も変わったところはない。
ただ何かがひっかかる。
ひっかかるが寝ぼけた頭では理解できない。
違和感を感じながらも、町の風景を目に収めると健一はカーテンを閉めた。
残像が頭をよぎる。 
 
!?
 
やっぱり何かおかしい。
閉めかけたカーテンをもう一度開ける。
「・・・広い。」
一言だけ出た。そう、広いのだ。
そうして、やっと気付いた。
普段あるものが無い。だから、広い。
無いのは彼の住むアパートから1km程先にある複合デパートだ。
一昨年、郊外の空き地に目を付けた大手デパート業者が
わずか一年足らずで建ててしまった、いわゆるショッピングセンター。
それが丸ごと無い。
響く轟音はだんだんと大きくなっている。
健一はよく見るために屋上へと向かった。5階建てのこのアパートの屋上へ。
キィと屋上への扉がきしむ。
この屋上が使われることはほとんどなく、
手入れもほとんどされていないそこでは砂ぼこりが風に舞っていた。
急いで錆付いたフェンスへと駆け寄ると、身を乗り出すようにして
ショッピングセンターの方角を見た。
今度はハッキリと見える。
健一の部屋からは角度が低くて見えなかったが、
どうやらそれは、無いのではなくて倒壊していると言う方が正しいだろう。
しかもその倒壊は大きく弧を描きながらこちらへと
向かってきているように見える。
倒壊が向かってくると言うのもおかしな話だが、
倒壊を線で結んだとき、そのベクトルがこちらを向いているのだから
それとしか言いようが無い。
倒壊は今まさに健一のアパートへと迫ってきているのだ。
倒壊の速度はあまりにも速く、健一の目が倒壊の先端に追いついたときには
倒壊は弧を描きながらもすでに目の前まで来ていた。
瞬間、健一の目に何かが飛び込んできた。
4本足で長いシッポ、そしてチャーミングなカタチ。
         猫?
猫らしき物体が空中を走っている。
いやあれは猫だ。
茶をベースとした毛色にところどころ黒の混じった猫。
どうやら猫の走るその真下が倒壊しているようだ。
意外と冷静に現状を把握している自分を意識しつつも思う。
ならば、猫が自分の真上を走ればアパートは倒壊するのか?
猫はもう目前まで来ている。
「もう駄目だ・・・・!」
健一は倒壊を覚悟して身を伏せた。
自分の人生は猫で終わるのか、いやもう終わった人もいるだろう。
大体何故猫なのか、しかも空中を走っている。
ましてや猫が倒壊の原因なんてわけがわからない。
だがこの場面においてそんなことはもうどうでも良いことだった。
目の前の空間を猫が走っていて、それが破壊の原因で、事実だ。
そして自分はここでアパートと共に崩壊する。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・。
ゴゴゴゴゴ・・・。
あらゆるものが崩壊していく音がする・・。
後何秒で自分は巻き込まれるのだろうか。
一秒が一年のように感じられる。きっとこれが死ぬってことなのだろう。
思えば、自分の上京に親は乗り気ではなかった。
親としては自分のいる九州内の大学へ進学して欲しかったのだろう。
何かあったときにはすぐに飛んでこられるように。
そんな親の心配も振り切って、自分は関東の大学を選んだ。
どうしても行きたい学科があったとかそういうことではなく
ただ、田舎から抜け出したかった。それだけだ。
だが、こうなってしまった今となっては、やはり親のいうことを
聞くべきだったと思わなくもない。
心の中で両親に謝ると、健一はじっとそのときを待った。
・・・・・・遅い。
まだ崩壊しないのか。それとももう死んでしまったのか。
これではまさにヘビの生殺しだ。
少々苛立って、健一は顔を上げた。
倒壊していない。
恐る恐るフェンスから顔を出す。
下方へと目をやると、向かいの並んだ一軒家が悲惨なまでに破壊されていた。
まるで震度7地震が超局地的に発生したようだ。
倒壊は、少し進んだ青い屋根の家の前で止まっていた。
どうやらギリギリで猫の軌道はアパートから逸れていたらしい。
健一はホッと一息ついた。
        

明日また続き書きます。とりあえず今日はここら辺で・・。

*あくまでも僕の夢の文章化ですので、多少の現実との矛盾はお見逃しください